君の笑顔をずっと守りたい 夢のような時が過ぎても

a33com2006-09-18

 

川o・-・)<突然ですが



こちらの続きです。




不定期連載?


連続?妄想劇場

少女R



第2話 『ネコじゃないモン!』



れいなを飼いはじめて−
というより、れいなと暮らすようになって1週間。


人の姿になるまでは野良猫として暮らしていたらしいれいなだけど、その間それなりに人間の生活については観察はしていたらしく、家の中で大人しくしている分には特に大きな問題もなく「人間としての」生活が出来ていた。


とは言え1週間。家に閉じこもりっ放しというのはいかにも不健康だし、そろそろれいなを外に連れて行ってやらなきゃなとも思っていた僕は、れいなに行きたいところはないかと訊ねたら、ちょっと意外な答えが返ってきた。


れいなの行きたいところ−


海。



「へー…これが“うみ”ねー…なんか、だぁーれもおらんたい」
 
季節も過ぎた海水浴場。かろうじてまだ遊泳禁止とかにはなっていないようだけれど、さすがに人影は皆無で、その様はれいなのイメージする“うみ”とは少し違うものだったようだ。


「まぁ、もうシーズンじゃないからなぁ…なんか水も冷たそうだし…どうする?」
「ん?別によかたい。他に人がおらんとは独り占めできるけんかえってよかし」
「?ひとりじめ??」
「さぁー、いくばーい!」
その言葉の意味が少し理解できない僕だったけど、それを正すより先にれいなは海へと歩を進めだした。
 
妙に意気込んで、力強く歩を進めるれいな…って、ちょっと待て、そのまま海に入る気か?


「ちょ、ちょっと待った、れいな!海に入るならちゃんと着替えないと…」
「えー…れいな別にこのままでもよかっちゃけど…」
「だーめ。海に入るには水着に着替えるってのは人間の決まり。その為にハズカシイ思いして水着買ってきてやったんだから…」
「んーもぉーだけん人間は面倒くさくて好かんっ!」
「いいから早く着替えてきな。あ、ちゃんとあっちの更衣室で、人に見られないように気をつけるんだよ」
「もぉーうるさい!」


ちょっとキレ気味で着替えに行くれいな。自由気ままに野良猫をやってきたれいなはとかく人間の決まりごとに対して面倒くさがる。
まぁ、気持ちはわからないこともないケド…。


れいなは猫から人間になるとき既に服を着ていた。れいなによれば、それは神様の「せめてもの情け」ということらしいが、さすがに服が一着では生活はままならないので、僕はかなり恥ずかしい思いをしてれいなの着る物を買いそろえた。
その中でも、最上級に恥ずかしい思いをしたのが、今、れいなが着替えている「水着」だ。


「まったく、、、コッチの苦労ってのを少しはわかって欲しいよなぁ、れいなには…」
「…れいながどーしたて?」
「!い、いやなんでも…」
れいなの着替えを待ちながら一人ごちていた僕の背後からいつのまにか着替え終わってこっちに来ていたらしいれいなの声が聞こえた。
ちょっと不意をつかれて慌てて振り返った僕は、その後目に飛び込んでくる光景に、さらに慌てるコトになる。
 
「れいながどーしたんね?」
「あ、、、い、いや、、え〜っと…」
「お前のゆーとり、み…みずぎ?やっけ?着替えてきてやったよ。これで文句はなかろ?」
「あ、、、う、うん、、、似合ってる…あ、いや、うん、それで、問題ない、うん」
その水着は本来似合うとか似合わないとかどうでも良かったはずのもので、実際そんなコトは二の次で売り場のオネーサンにお任せで買ったものだったから、それを身につけたれいなのこの眩しさは、まったくもって僕の想像の範囲外の出来事だった。


「じゃあ、もう“うみ”に入ってもいいっちゃね?」
「あ、うん、どうぞ…」
「よぉ〜し…お魚いっぱい捕るけんねー!」

 
と、海に向って意気込むれいな。
あぁ、そうか、魚を捕りたくて海に来たかったのか、れいなは・・・・・って、魚!?


「ちょ、ちょっと待ってれいな!魚って…」
「それー!」
間に合わなかった。僕が制止の言葉を叫んだ時は、もうれいなの姿は青い海の中に消えるところだった。
「あ〜あ…」


「うわぁ〜!何これぇ〜!!」
 
今しがた姿が消えたと思ったらそれこそあっという間、叫び声を上げながられいなは水際から文字通り飛び出してきた。
「なんコレェ〜ヘンな味ぃ〜〜〜〜」
れいなにとってしょっぱい水は初体験らしい。
「お〜いれいなぁ〜大丈夫かぁ〜」
「なんねこの水〜ヘンな味がすっるっちゃよぉ〜もぉ〜!」
「ははは…海の水ってのはね、塩分が…」
「もぉ〜サイテー!」
海の水のしょっぱさを解説しようとした僕の言葉を遮るれいなの叫びに、その行為の無意味さを悟った僕は、それ以上言葉を続けるよりもただこのれいなの初体験のショックを一緒に受け止めることにした。
「大丈夫かぁ?れいな」
「もぉ信じられん!お魚も全っ然おらんし!!」
「いや、あのねれいな、魚を捕るってのはちょっとここではムリだわ」
「えーなんでぇー。“うみ”ってお魚がいっ〜ぱいおる所って聞いたっちゃよ、れいな」
「や、まぁ、確かに魚は海にいるケドさ。潜って掴み捕りとかはこんな海水浴場の浜辺ではちょっとムリだわ」
「えーなんそれぇー!」
 
「もぉれいなチョーショック!」
「そんなに魚捕りたかったの?」
「れいな人間になったら“うみ”でお魚い〜っぱい捕るとだけが楽しみだったとにもぉー」
「あ〜…そーなんだ…」


確か何か悪いことをした罰で神様に人間の姿に変えられたと言っていたれいなが「楽しみにしていた」ってのもなんだかおかしな話しだとも思ったが、それよりもまず、そんなれいなの期待を事前に知っていたら、もっとそれに答えることが出来る手立てもあったはずだなと、申し訳ない気持ちが湧いてくる。


「わかったよ、れいな。今度釣りに行こう。魚釣り」
「つり?それお魚捕れると??」
「うん。実際海に潜ってとかじゃなくて、道具を使って魚を捕るんだ」
「えーそやんとがあっとー」
「ああ」
「あぁぁぁぁチョー楽しみぃ〜ソレ♪」
 
さっきまでとはコロリと表情を変えて、本当に無邪気な笑顔になるれいな。
なんだか、この笑顔を見る為なら、どんな事だってしてあげたくなってしまいそうだ。


人間になるという「罰」を受けている最中のハズのれいなだけど、そんな状況でも「楽しい」ことに向ってるれいなのこの眩しさは、側にいるだけでなんだか自分にも力を与えてくれる気がする。


「釣りは、今度連れてってやるから、今日はここで遊んで帰ろう」
「うん♪」
はじけるように答えて、れいなは砂浜を駆け回わりはじめ、やがては2本足で立つことを忘れたかのように、手をついて4本足で走り回りはじめる。やっぱり根本的に「猫」の部分は消えてはいないようだ。
 
「こらーれいなー!2本足を忘れてるゾぉー!」
「え〜!よかたい別にぃ〜」
「人間は2本足で歩いて走るの!」
「だってれいなは猫だもん!」
「あっそ〜!れいなが猫だってんなら、別に釣りとか連れて行かなくてもいいよね〜!?」
「え〜待って待って!れいなは人間!人間たい!!ネコじゃなかモン!!」
 
「ほらほら、2本足〜♪」
「あははははは…それでよぉ〜し♪」



れいなにとって、人間になった事は神様の罰だったかもしれないけれど、そんなれいなに出逢えた僕には、それは神様がくれた恵みと言えるのかもしれない。


釣りなんて一度もしたことない僕だけど、明日から勉強しないといけないな。
れいなのこの笑顔を、ずっとずっと見ていたいから−